学術大会概要

大会長挨拶

小野寺 理

第68回日本神経学会学術大会
大会長 小野寺 理
新潟大学 理事・副学長
新潟大学脳研究所臨床神経学部門神経内科学分野 教授

第68回日本神経学会学術大会は、2027年5月、新潟市・朱鷺メッセを主会場として開催される運びとなりました。本学術大会の大会長を拝命しております小野寺 理でございます。新潟大学脳神経内科学教室を代表して、謹んでご挨拶申し上げます。

今回の大会テーマは、

「症状の向こう側へ
― 対話・共創・共感でひらく全人的神経内科医療 ―」

といたしました。

脳神経内科学は、その成立以来、症状を診療と思索の出発点としてきた学問です。Jean-Martin Charcot以来、約一世紀半にわたり、私たち脳神経内科医は患者さんの振戦、しびれ、めまい、ふらつき、言葉の出にくさといった症状を手がかりに、神経系のどこに、どのような異常が生じているのかを読み解いてまいりました。

神経学的局在診断という方法論、緻密な病歴聴取、丁寧な神経診察。これらは脳神経内科医にとって、今なお揺るぎない誇りであり、他のいかなる診療科にも譲ることのできない専門性の核であると信じております。

しかし、私たちはいま、確かに一つの転換点に立っております。

ゲノム医学、分子病態学、神経イメージング、デジタルバイオマーカー、そして人工知能。これらの急速な進展により、症状が顕在化するはるか以前から、疾患の分子病態に直接アプローチできる時代が到来しました。

アルツハイマー病における抗アミロイド抗体療法、ALSにおける遺伝子標的治療に加え、脊髄小脳変性症や脳小血管病においても新たな分子標的が同定されつつあります。病態の根幹に介入する疾患修飾療法が、ようやく私たちの臨床と研究の射程に入り始めております。

症状から病巣を推定してきた神経学は、分子病態を捉え、症状の発現を未然に防ぐ予防的・先制的神経学へと広がりつつあります。この変化は、臨床と研究の現場で着実に進んでおります。

その一方で、分子病態の理解だけでは捉えきれない、患者さん一人ひとりの経験や語り、すなわち narrative もまた、これまで以上に大きな意味を持つようになっています。

数値化できない痛み、検査には表れない違和感、診断名だけでは説明しきれない生活の変化や不安。脳神経内科の患者さんが抱える経験は、とりわけ言語化の難しい領域に属しています。生物学的理解が精緻化すればするほど、私たちは逆説的に、患者さんを一人の人として受け止める姿勢を、いま一度深く問い直す必要があります。

すなわち、現代の脳神経内科医に求められているのは、症状の「奥」にある分子病態を見抜くまなざしと、症状の「向こう側」にある人生の物語に耳を澄ます誠実さ、その両方を兼ね備えることではないでしょうか。

新潟大会は、こうした脳神経内科医の新しい姿を宣言する場としたいと考えております。

そのために、本大会では三つの軸を設定いたしました。

「語る」
症例、患者さんの体験、教育実践を共有し、科学と人間理解の両立を図る共感の軸。

「交わる」
医局、世代、職種、地域、国境を越え、相互理解と実践的価値を生み出す対話の軸。

「ひらく」
既存の学説や枠組みに挑み、最先端研究と未来構想を展開する共創の軸。

この三つの軸が交わるところにこそ、次世代の全人的神経内科医療、すなわち Whole-Person Neurological Care が育まれるものと確信しております。

一方向的な聴講するだけの場から、参加者一人ひとりが議論し、共創し、共感する「知的格闘と対話の場」へ。本大会を、そのような新しい学術大会へと進化させたいと考えております。

新潟は、初代教授の椿忠雄先生以来の神経内科学の伝統が脈々と受け継がれてきた地であり、また、世界有数のヒト疾患脳の研究資源を擁する新潟大学脳研究所の所在地でもあります。

豊かな自然と食文化、信濃川の流れと日本海の風のなかで、新しい知に出会い、旧友と再会し、未来の同志と語り合うひとときを、参加されるすべての皆様とともに過ごしたいと願っております。

医師、研究者、メディカルスタッフ、患者さん・ご家族、学生、そして国内外からお越しいただくあらゆる立場の皆様を、新潟・朱鷺メッセにお迎えできますことを、心より楽しみにしております。

共に、脳神経内科医療の「症状の向こう側」へ歩みを進めましょう。

小野寺 理