臨床神経学

依頼総説

神経筋疾患における生物学的相分離

五十棲 規嘉1), 杉江 和馬2), 森 英一朗1)*

Corresponding author: 奈良県立医科大学医学部未来基礎医学〔〒634-8521 奈良県橿原市四条町840番地〕
1)奈良県立医科大学医学部未来基礎医学
2)奈良県立医科大学医学部脳神経内科

生物学的相分離とは細胞内でタンパク質などの生体分子が液−液相分離する現象を示す.これまでに相分離性タンパク質の持つ低複雑性ドメインが相分離を駆動し,制御因子によって厳密に相分離が制御されることが分かっている.また,遺伝子異常が原因で相分離を破綻させる因子も見つかっている.以前から多くの神経筋疾患は原因タンパク質が異常な凝集体として蓄積することが知られていた.そして近年,神経筋疾患には相分離性のタンパク質が関わっており,それらの相分離制御に異常が起こることで凝集体を形成することが分かってきた.生物学的相分離はこれまで解明できなかった神経筋疾患の病態発症メカニズムを徐々に明らかにしつつある.
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(臨床神経, 63:799−805, 2023)
key words:生物学的相分離,低複雑性ドメイン,神経筋疾患

(受付日:2023年4月28日)