臨床神経学

症例報告

失タイプを来した皮質下梗塞の1例

山本 和佳奈1)*, 稲富 雄一郎1), 松田 実2)

1)済生会熊本病院脳神経内科
2)いずみの杜診療所

58歳,男性,右利き.タイピングが上手くできず,言葉も思うように出なくなったことに気づいた.第3病日の入院時には失行や視知覚障害はなかったが,語列挙障害などの前頭葉機能障害や,近時記憶障害を認めた.またキーボード目視下に可能であったローマ字入力によるタイピングが,特に拗音や促音が混在する語で困難であった.書字障害は軽微であった.MRIでは左内包膝部から後脚に梗塞巣を認め,SPECTでは左前頭葉に集積低下を認めた.本例では視床−前頭葉間の投射性線維が皮質下梗塞により遮断された結果,ローマ字綴りの想起障害による失タイプを来したと考えられた.
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(臨床神経, 64:163−170, 2024)
key words:失タイプ,脳梗塞,視床,内包,前頭葉

(受付日:2023年7月16日)