臨床神経学

症例報告

一過性甲状腺機能亢進時に痴呆様症状が出現した無痛性甲状腺炎の1例

伊井 裕一郎, 大平 貴之, 成田 有吾, 葛原 茂樹

三重大学神経内科〔〒514-8507 三重県津市江戸橋2-174〕

一過性の甲状腺機能亢進時に痴呆様症状が出現した,無痛性甲状腺炎の71歳女性例を報告した.異常行動,記銘力障害などの痴呆様症状で発症し,脳波で基礎律動の徐波化,脳血流シンチで前頭側頭優位の集積低下,甲状腺機能亢進症をみとめた.TSHレセプター抗体陰性,炎症反応陰性,甲状腺シンチの集積低下より無痛性甲状腺炎と診断し,無投薬で経過観察とした.甲状腺機能の改善にともない,痴呆様症状は消失し,脳波の徐波化と脳血流シンチの集積低下も改善した.いわゆるtreatable dementiaの鑑別疾患として,無痛性甲状腺炎による甲状腺機能亢進状態も念頭におく必要がある.

(臨床神経, 43:341−344, 2003)
key words:無痛性甲状腺炎, 痴呆, 甲状腺機能亢進症, 脳血流シンチ

(受付日:2003年1月27日)