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神経学会の先駆的取り組み:医師のはたらき方改革と脳神経内科医のキャリア形成

要旨:日本神経学会は「医師の燃え尽き症候群」に対し先駆的な取り組みを行っています.その取り組みの一部が新聞報道されましたが,残念ながら誤解を招くものになりました.この問題に取り組む前提として,多くのひとに燃え尽き症候群の学術的定義,燃え尽き症候群は脳神経内科医に特有の問題ではないこと,日本神経学会の先駆的な取り組みの全体像を正しくご理解いただきたく思います.日本神経学会では本年度,全学会員を対象とした大規模アンケート調査を行い,対策をさらに強化してまいります.医師の燃え尽き症候群に正面から取り組み,患者さんを中心にした神経疾患の治療・ケアの質の向上,および学会員のキャリア形成の満足度の向上を促進することを目指します.

1.医師における燃え尽き症候群に関する3つの誤解

 2019年5月23日付の朝日新聞に「大学の脳神経内科医の半数が『燃え尽き症候群』?」というショッキングな記事が掲載されました.これは第60回日本神経学会学術大会(大阪)におけるシンポジウム「燃え尽き症候群を防ぐための対策と提言」のために行われた,大学に勤務する脳神経内科医に対する調査結果の一部が取り上げられたものです.しかし残念ながらシンポジウムに対する取材は行われず,日本神経学会が行っている取り組みや意図は報道されませんでした.日本神経学会は,燃え尽き症候群について誤解を防ぐためにも,多くの人に以下の3点をご理解いただきたきたいと考えています.

  1. ①「燃え尽き症候群」の学術的定義は多くの人が考えているものと異なります!
    「燃え尽き症候群」は国際的に定められた質問表を用いて,(a)情緒的消耗感(仕事を通じて力を出し尽くして消耗した状態)(b)脱人格化(相手に対する無情で非人間的な対応)(c)個人的達成感の低下のいずれかを満たした状態を指します.燃え尽きてしまった状態(burned out)の医師のみを指すものではなく,そのリスクを抱えつつ勤務を行っている状態(burning out)の医師をも含みます.日本神経学会は「リスクを抱えつつ勤務を行っている医師に対して,burned outを未然に防ぐために積極的な対策や支援を施す必要がある」と考えています.
  2. ②「燃え尽き症候群」は脳神経内科医に特有の問題ではありません!
    海外での調査で,医師における「燃え尽き症候群」の問題は,多くの診療科が取り組むべき課題と考えられています.日本国内では「燃え尽き症候群」に対する調査がほとんど行われていない状況ですが,近年の急激な医療や勤務環境の変化を反映し,多くの診療科医師がこの問題を抱えているものと思われます.
  3. ③日本神経学会は先陣を切り,本格的な取り組みを開始しました!
    日本神経学会は,脳神経内科医を含む医師を「燃え尽き症候群」のリスクから守るため,先陣を切って本格的な取り組みを開始しました.この先駆的な取り組みが評価され,「週刊医学界新聞」に取り上げられたり,「医学のあゆみ」誌で連載記事が掲載されたりしています.今後の国内における「燃え尽き症候群」対策を牽引したいと考えています.

2.過去2回のシンポジウムにおける議論

 日本神経学会では,第59回日本神経学会学術大会(札幌)にてシンポジウム「脳神経内科医の燃え尽き症候群を防ぐために」を開催し,初めて「燃え尽き症候群」の問題を取り上げ,若手医師,急性期病院医師,女性医師,大学病院医師の立場から「燃え尽き症候群」の状況と対策について発表を行い,大きな反響がありました(写真).第60回日本神経学会学術大会(大阪)では議論をさらに深め,女性医師,大学医師,一般病院医師,そしてキャリア形成促進委員会の各々の立場から「対策と提言」を行いました.加えて,組織における対策としての「リーダーシップ教育の重要性」についても議論を行いました.総合討論でも会場から多くの発言があり,今後,行うべき取り組みについて積極的な意見交換がなされました.

3.シンポジウムからの提言

 燃え尽き症候群の原因は複合的であるため,対策も個人,組織・病院,国レベルで行う必要があります.2回のシンポジウムの成果としての提言は,以下にまとめることができます.いずれも各学会員がその必要性を共有し,「継続した取り組み」を,スピード感を持って行う必要があると考えています.

  1. (1)個人での取り組み
    自分にあったレジリエンス(ストレス回復力)向上の方法を考える
    仕事に意義を見出す
    自分の「幸福」について考える
    医学以外の教養(リベラルアーツ)を学ぶ 
  2. (2)キャリア支援とリーダーシップ教育
    個人の価値観や働き方,レジリエンスの強さといったdiversityの理解
    性差のハンディなくキャリアを積んでいけるような支援
    各種ハラスメントの理解と防止
    先輩医師に相談できるようなメンター制度
    若手医師,地方に勤務する医師への指導・サポートを目的としたネットワークの構築
    リーダーシップ研修の実施
  3. (3)組織改革・働き方改革
    指導者,管理者層の意識改革(連携調整,労働時間管理)
    勤務時間延長因子改善への取り組み(書類作成,急患対応,患者説明への取り組み)
    タスクシフト,タスクシェアリング,タスクデリート(メディカルクラーク,医師間連携)
    休憩・休暇を取りやすい制度(複数主治医制,適正な休暇の取得)
    当直を含む業務量の適正化
  4. (4)組織・国への働きかけ
    脳神経内科医を増やす取り組みの強化
    医師の働き方改革への学会として取り組みの強化
    業務量に応じた給与見直しの働きかけ(例:大学病院-市中病院間格差)
    行政や関係諸機関への提言,情報発信

4.日本神経学会の取り組み

 日本神経学会では2012年にキャリア形成促進委員会を発足させ,男女共同参画を促進すべく,学術大会時にシンポジウムやキャリアカフェを設置する特別企画を行うなど,啓発活動に努めてまいりました.今後,さらに以下の目標を「3つの柱」として,取り組みを本格化させていきます.

  1. ①キャリア支援・・・・女性医師支援,diversityの時代を踏まえた支援
  2. ②リーダーシップ教育の推進
  3. ③医師の働き方改革・燃え尽き症候群への対策

 そして日本神経学会は,学会員全員を対象とした「燃え尽き症候群」の現状を把握し,海外(米国,中国)の状況と比較する大規模アンケート調査を予定しています.この結果を踏まえ,日本神経学会はさらに「燃え尽き症候群」への対策を強化してまいります.このように医師の「燃え尽き症候群」に正面から取り組み,さらに患者さんを中心にした神経疾患の治療・ケアの質の向上,および学会員のキャリア形成の満足度の向上を促進することを目指します.ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます.


写真は第59回日本神経学会学術大会シンポジウム「神経内科医の燃え尽き症候群を防ぐために~バーンアウトしないためのTipsをシェアしよう~」の様子(2018年5月25日.札幌)

一般社団法人日本神経学会
代表理事 戸田 達史
同 キャリア形成促進委員会
委員長   武田  篤