臨床神経学

症例報告

描画を通じて手段的日常生活動作の改善を認めた獲得性サヴァン症候群の1例

井元 万紀子1)*, 刀坂 公崇1)2), 北口 響子3), 白川 雅之3), 奥田 志保1)

Corresponding author: 兵庫県立リハビリテーション中央病院脳神経内科〔〒651-2181 兵庫県神戸市西区曙町1070〕
1)兵庫県立リハビリテーション中央病院脳神経内科
2)神戸大学大学院医学研究科脳神経内科学分野
3)兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部

症例は73歳の右利き男性.ヘルペス脳炎を発症し,重度のウェルニッケ失語を含む認知機能低下が残存した.病前に描画の習慣はなく,妻の勧めで始めた塗り絵をきっかけに,発症数年後より風景写真の模写を始めた.その作品は写実的傾向が強く,病巣は左半球であり,獲得性サヴァン症候群の特徴を有していた.描画能力の向上に伴い,買い物や公共交通機関の利用などの手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living; IADL)も向上したが,標準失語症検査などの神経心理学的検査では著変を認めなかった.本症例では,描画活動で得られた達成感や支援者とのコミュニケーションがきっかけとなり,IADLの向上につながった可能性が考えられた.
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(臨床神経, 60:321−327, 2020)
key words:獲得性サヴァン症候群,失語,認知機能低下,手段的日常生活動作(IADL),描画

(受付日:2019年6月24日)