臨床神経学

症例報告

胸骨正中切開術後の血腫による圧迫で腕神経叢下神経幹障害を生じた1例

木村 正夢嶺1), 吉村 元1)*, 幸原 伸夫1)

Corresponding author: 神戸市立医療センター中央市民病院脳神経内科〔〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町2-1-1〕
1) 神戸市立医療センター中央市民病院脳神経内科

症例は81歳女性.胸骨正中切開で心臓手術を受けた翌日から,左上肢の遠位筋筋力低下と前腕から左手尺側にしびれ感が出現した.神経伝導検査で尺骨神経の運動・感覚神経,及び橈骨神経,内側前腕皮神経の感覚神経で振幅低下を認め,腕神経叢下神経幹障害と推定した.CTで左第一肋骨骨折を認め,MRIで骨折周囲の下神経幹部に血腫を同定し,short T1 inversion recovery(STIR)撮像法では血腫近位部の腕神経叢C8根部に信号変化を認めた.以上から,血腫の圧迫による下神経幹障害と判断した.本例は胸骨正中切開術後に典型的とされる腕神経叢C8根部障害ではなく下神経幹障害と診断した症例であり,MRIで下神経幹近傍に障害の原因となる血腫を同定できた.
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(臨床神経, 60:758−761, 2020)
key words:胸骨正中切開術,腕神経叢障害,下神経幹,血腫

(受付日:2020年2月28日)