臨床神経学

症例報告

遺伝性痙性対麻痺と診断されていた家族性筋萎縮性側索硬化症の1家系

谷口 雄大1), 法化図 陽一1)*, 岡田 敬史1), 石橋 正人1), 橋口 昭大2), 松浦 英治2), 嶋 博2)

Corresponding author: 大分県立病院神経内科〔〒870-8511 大分県大分市豊鏡476番地〕
1)大分県立病院神経内科
2)鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経内科・老年病学

30年以上にわたり四肢の筋萎縮を呈した44歳男性の筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)4を報告する.患者は10歳代に発症し20歳代に遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia; HSP)と診断された.自覚症状はないものの腓腹神経の軸索障害を認めた.父・叔父もHSPと診断されていた.父は73歳.20歳代に歩行障害を呈し60歳代で下肢の運動機能がほぼ消失し,今回の診察で四肢筋萎縮,温度覚・振動覚・関節位置覚の障害を認めた.遺伝子検査で共にsenataxin(SETX)遺伝子変異(c.8C>T,p.T3I)を認め,ALS4の1家系と判明した.ALS4はHSPと臨床所見が類似している点もあり,遺伝子検査なしにHSPと診断された家系にALS4家系が潜んでいる可能性が考えられた.
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(臨床神経, 57:685−690, 2017)
key words:家族性筋萎縮性側索硬化症,遺伝性痙性対麻痺,感覚障害,SETX遺伝子

(受付日:2017年1月12日)