臨床神経学

第50回日本神経学会総会

<教育講演5>
中枢神経系におけるアクアポリン-4(AQP4)の役割

安井 正人

慶應義塾大学医学部薬理学教室〔〒160-8582 東京都新宿区信濃町35〕

体内水分バランスは,生体の恒常性維持機能のもっとも重要な調節機構である.水分バランスの不均衡は,様々な病態にともなってみとめられ,その補正が治療上有効となることが多い.水チャネル,アクアポリンの発見は,体内水分バランスや分泌・吸収に対するわれわれの理解を分子レベルまで深めることとなった.腎臓における尿の濃縮・希釈はもちろんのこと,涙液・唾液の分泌にも重要な働きをしている.アクアポリンの結晶構造が解明されたことで,水分子がいかにしてアクアポリンのポアを選択的に通過するか,分子動力学シミュレーションを駆使して再現することも可能となった.アクアポリンの調節機構に対する理解も進みつつあり,アクアポリンを標的とする創薬への期待が高まっている.脳においても水バランスの重要性は例外ではない.アクアポリンの分布から考えて,神経細胞ではなくグリア細胞がその役割を担っていると考えられている.グリア細胞に発現しているアクアポリン-4(AQP4)は,脳浮腫の病態生理に関与している事が明らかになったのみならず,最近ではNMOの患者に特異的にみとめられるNMO-IgGの抗原としてAQP4が同定されるなど,AQP4は臨床的にも大変注目を集めている.AQP4の立体構造も解明され,分子標的創薬の面からも期待が高まっている.
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(臨床神経, 49:786−788, 2009)
key words:アクアポリン, NMO, 構造・機能相関, 創薬

(受付日:2009年5月22日)