臨床神経学

症例報告

電気生理学的に局在診断できた胸骨正中切開術後C8腕神経叢障害の1例

東原 真奈1)*, 園生 雅弘2), 橋田 秀司1), 海野 聡子1)**, 武田 克彦1)***

1)日本赤十字社医療センター 神経内科〔〒150-8935 東京都渋谷区広尾4-1-22〕
2)帝京大学医学部 神経内科〔〒173-8606 東京都板橋区加賀2-11-1〕
現 虎の門病院 神経内科
**現 東京女子医科大学 神経内科
***現 国際医療福祉大学三田病院 神経内科

症例は54歳男性である.大動脈解離に対する胸骨正中切開術後より右上肢尺骨神経支配手内筋の筋力低下と環指小指の感覚障害が出現した.11カ月後の神経伝導検査では尺骨神経と正中神経環指記録感覚神経活動電位(SNAP)低下をみとめ,内側前腕皮神経SNAPは保たれていた.針筋電図では尺骨神経支配筋だけでなく,C8由来橈骨神経支配筋にも変化をみとめた.以上から病変局在は後根神経節より遠位の腕神経叢C8根部と考えられ,胸骨正中切開術後C8腕神経叢障害と診断した.C8腕神経叢障害は尺骨神経障害と臨床的に酷似した病像を呈し,鑑別には電気生理学的手法が重要である.本症例は胸骨正中切開術後C8腕神経叢障害としては本邦はじめての報告例である.

(臨床神経, 47:160−164, 2007)
key words:胸骨正中切開術後C8腕神経叢障害, 尺骨神経障害, 感覚神経伝導検査, 針筋電図検査, 正中神経

(受付日:2006年9月12日)