臨床神経学

症例報告

関節リウマチに対する抗TNFα抗体治療中に視覚認知障害を呈した1例

小林 俊輔1), 丹野 亮2), 仲村 一郎2), 伊藤 勝己2), 宇川 義一1)

1)東京大学医学部付属病院神経内科〔〒113-8655〕
2)湯河原厚生年金病院リウマチ科

関節リウマチに対する抗TNFαモノクローナル抗体(インフリキシマブ)治療中に複視,失調,視覚認知障害をふくむ中枢神経症状が出現した56歳男性例を経験した.MRI上T1等信号から低信号,T2高信号の病巣を中脳,後頭葉をふくむ領域に多発性にみとめた.視覚認知障害は線画の認知に特徴的で輪郭抽出の障害がうたがわれた.症状はインフリキシマブ治療中止とステロイド投与にて徐々に改善した.抗TNFα抗体投与による多発性硬化症の再燃例は少なからず報告されている.本例は神経疾患の既往のない関節リウマチ患者であり,新たに脱髄性の機序がうたがわれる病変が出現している.同剤による治療に際しては副作用としての神経症状に十分な注意を要する.

(臨床神経, 47:96−99, 2007)
key words:インフリキシマブ, 脱髄病変, 自己免疫疾患, 視覚性失認

(受付日:2006年6月16日)