臨床神経学

第48回日本神経学会総会

<教育講演3>
ここまでわかったパーキンソン病(PD)の成因―遺伝性PDの病態からわかったこと

服部 信孝, 久保 紳一郎

順天堂大学医学部脳神経内科〔〒113-8421 東京都文京区本郷2-1-1〕

パーキンソン病(PD)のほとんどは,遺伝歴のない孤発型が主体となっている.しかしながら,近年の分子生物学の進歩により単一遺伝子異常にともなう遺伝性PD(FPD)が存在することがわかり,現在では単一遺伝子異常にともなうFPDの遺伝子産物の機能解析から孤発型PDの病態解明へ繋げようとする戦略が盛んにおこなわれるようになった.1983年の1-methyl-4-phenyl-1, 2, 3, 6-tetrahydropyridine(MPTP)によるパーキンソニズムの報告以来,PDの病態解明は加速的に進んでいる.一方で,依然真の要因については解明にいたっていないといわざるをえない.しかしながら,FPDの研究からLewy小体の主要構成成分であるα-synuclein分子の発見,parkin分子の発見によりubiquitin-proteasome pathwayの関与,更にはPark9のATP13A2の発見でautophagy-lysosomal pathwayも黒質ドパミン神経変性に関与していることがわかった.少なくとも二大蛋白分解系が神経変性に重要な役割をなしていることが推定される.更に劣性遺伝性FPDの遺伝子産物PINk1, DJ-1はミトコンドリア機能にかかわっていることが推定されており,parkinもふくめて神経変性の機序にミトコンドリア機能が関与していることが考えられている.おそらくFPDの遺伝子産物は,共通カスケードを形成していると推定される.黒質神経変性の機序は,まさしくFPDの機能解明から今解き明かされようとしている.

(臨床神経, 47:774−778, 2007)
key words:ユビキチン・プロテアソーム系, オートファジー・リソソーム系, レビー小体, 遺伝性パーキンソン病, 遺伝子産物機能

(受付日:2007年5月16日)