臨床神経学

第48回日本神経学会総会

<日本神経学会2006年度楢林賞受賞者招待講演>
運動障害の発現モデルと定位脳手術効果

橋本 隆男

相澤病院 神経疾患研究センター〔〒390-8510 松本市本庄2-5-1〕

運動障害のfiring rate modelは,運動過剰症状と寡動の機序を,大脳基底核の出力部である淡蒼球内節と黒質網様部から視床―大脳皮質投射への抑制量の変化で表した.しかし,このモデルは視床破壊術が寡動を誘発しないことを説明できない.これに代わって,β-oscillation仮説が現れ,パーキンソン病では基底核神経活動のβ-oscillationが増加し,随意運動の開始を障害して寡動を生じる可能性を示している.われわれは,MPTPをもちいたサルのパーキンソン病モデルで視床下核を高頻度電気刺激し,寡動の改善を確認した後で投射先である淡蒼球ニューロンの発火の変化をしらべた.100 Hz以上の刺激で淡蒼球内節と外節のニューロンの多くが発火頻度上昇を示し,刺激に同期した高頻度等間隔の発火にシフトした.この結果はfiring rate modelに合致せず,高頻度刺激はβ-oscillationを打ち消すことにより効果を表す可能性がある.バリスムや舞踏病の発現機序も基底核ニューロンの発火頻度よりも発火パターンが重要であると考えられる.

(臨床神経, 47:727−729, 2007)
key words:基底核, パーキンソン病, バリスム, 舞踏病, 深部脳刺激

(受付日:2007年5月16日)