臨床神経学

症例報告

塩酸クロピドグレルにより血栓性血小板減少性紫斑病をきたした脳梗塞の1例

福迫 俊弘1), 山下 博史1), 尾本 雅俊1), 松田 万幸2), 篠原 健次2), 藤村 吉博3)

1)山口県立総合医療センター神経内科〔〒747-8511 山口県防府市大字大崎77番地〕
2)同 血液内科
3)奈良県立医科大学輸血部〔〒634-8522 奈良県橿原市四条町840〕

症例は80歳の女性である.脳梗塞による右片麻痺と失語で入院した.アルガトロバンにより軽快傾向となり,第6病日より塩酸クロピドグレル75 mgを開始した.その4日後より下肢に紫斑が出現し,翌日には四肢に広がったため塩酸クロピドグレルは中止した.血小板数は14万/μlから減少を続け,中止後3日目には2.2万/μlまで低下したため血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と診断し,血漿交換を開始した.その後計7回試行したが,第19病日に脳梗塞を再発し敗血症で死亡した.TTPは診断と治療が遅れると致死性となる副作用である.塩酸チクロピジンによるものと塩酸クロピドグレルによるものとはその発症様式がことなるとされている.早急な具体的治療法の確立が望まれる.

(臨床神経, 47:635−638, 2007)
key words:血栓性血小板減少性紫斑病, 塩酸クロピドグレル, 塩酸チクロピジン, 脳梗塞, 血漿交換

(受付日:2006年12月14日)