臨床神経学

原著

血清と髄液中の抗グルタミン酸受容体ε2抗体が陽性で非ヘルペス性急性辺縁系脳炎様の症状を呈した橋本脳症の1例

新堂 晃大1), 伊井 裕一郎1), 佐々木 良元1), 高橋 幸利2), 米田 誠3), 葛原 茂樹1)

1)三重大学 神経内科〔〒514-8507 三重県津市江戸橋2丁目174番地〕
2)国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター
3)福井大学 第二内科

症例は37歳女性である.頭痛と発熱で急性に発症し,記憶障害と痙攣発作,項部硬直,前向性・逆向性健忘が出現した.髄液検査でリンパ球優位の細胞数増加,頭部MRI FLAIR画像で両側側頭葉内側の腫脹と高信号をみとめた.単純ヘルペスウィルスDNAは検出されなかったので,非ヘルペス性急性辺縁系脳炎(NHALE)と暫定診断した.しかし,血清学的に橋本病の診断基準を満たし,血清抗N末端α-エノラーゼ抗体も陽性であったので,橋本脳症と診断した.さらに,急性期の血清と髄液中に抗グルタミン酸受容体(GluR)ε2抗体が出現していた.橋本病や様々な自己抗体が関与しておこる脳症にはNHALEの病像を示すものがある.

(臨床神経, 47:629−634, 2007)
key words:非ヘルペス性急性辺縁系脳炎, 橋本脳症, 抗グルタミン酸受容体抗体, 抗α-enolase抗体, 自己免疫性脳炎

(受付日:2007年6月18日)