臨床神経学

短報

耳介擦過液のPCR法が診断に有効であったzoster sine herpeteによる舌咽迷走神経麻痺の1例

谷口 洋1), 久富 護1), 関根 威1), 松井 和隆1), 長友 真理子2), 井上 聖啓3)

1)東京慈恵会医科大学附属柏病院 神経内科〔〒277-8567 千葉県柏市柏下163番地1〕
2)東京慈恵会医科大学附属柏病院 耳鼻咽喉科
3)東京慈恵会医科大学附属病院 神経内科

症例は66歳女性である.咽頭痛と右耳痛の2日後に嚥下障害と嗄声が出現した.有痛性の右舌咽迷走神経麻痺をみとめたが,頸胸部CTと頭部MRIは正常であった.耳や咽喉頭に発疹はなかったが痛みの存在から,zoster sine herpete(ZSH)をうたがいアシクロビルを投与した.血清,髄液の抗varicella zoster virus(VZV)抗体価は既感染のパターンで,髄液VZV DNAもPCR陰性だが,耳介擦過液のVZV DNAがPCR陽性であった.治療により症状は改善し,PCRも陰性化した.ZSHによる耳痛をともなう舌咽迷走神経麻痺では,耳介擦過液のPCR法が診断に有用な可能性がある.

(臨床神経, 46:668−670, 2006)
key words:水痘帯状疱疹ウイルス, zoster sine herpete, 嚥下障害, 舌咽迷走神経麻痺, PCR

(受付日:2006年6月27日)