臨床神経学

症例報告

急性期に多様な形態変化をきたした鈍的外傷による総頸動脈解離の1例

植田 明彦1)3), 稲富 雄一郎1), 米原 敏郎1), 橋本 洋一郎2), 平野 照之3), 内野 誠3)

1)済生会熊本病院脳卒中センター神経内科
2)熊本市立熊本市民病院神経内科
3)熊本大学大学院医学薬学研究部脳神経科学講座神経内科学分野〔〒860-0811 熊本県熊本市本荘1-1-1〕

症例は68歳の男性である.右頸部への鈍的外傷の後,意識障害,左片麻痺,左半側空間無視,および左片麻痺に対する病態失認をきたして当院に入院した.頸部血管エコーや脳血管造影などにより受傷部に関連した右総頸動脈解離と診断した.急性期には,解離病変遠位の真腔部に壁在血栓の出現,解離の進行あるいは真腔の再開通など刻々と変化した.しかし抗凝固薬による保存的治療のみで,塞栓症再発による重度障害をまぬがれ,再開通にともなう過灌流障害などをきたすことなく良好な転帰がえられた.頸部血管エコーをふくむ厳重な経時的観察は本疾患の治療方針決定に有用であると考えられた.

(臨床神経, 46:631−637, 2006)
key words:外傷性動脈解離, 総頸動脈, 脳梗塞, 頸部血管エコー, 脳血管造影

(受付日:2006年7月27日)