臨床神経学

短報

両側淡蒼球から内包膝部にかけての限局性病変を有し,記憶障害と遂行機能障害をきたした橋本脳症の1例

福永 真実, 村井 弘之, 三野原 元澄, 菊池 仁志, 大八木 保政, 吉良 潤一

九州大学大学院医学研究院附属脳神経病研究施設神経内科〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕

症例は76歳男性である.入院1カ月前より家族をまちがえたり,テレビをみながら眠ったりするようになった.入院時,神経学的には意識清明であり,脳神経,四肢運動系には異常なかったが,両側病的反射が陽性であった.記銘力検査,手続き記憶検査,遂行機能検査などで異常をみとめた.抗サイログロブリン抗体および抗TPO抗体が高値,抗α-enolase抗体が陽性であった.MRIでは淡蒼球から内包膝部にかけて限局性の病変を両側性にみとめた.SPECTでは両側前頭葉・線条体などの血流が低下していた.プレドニゾロン60 mg/日より内服を開始し,漸減したところ,臨床症状の改善とともに高次脳機能検査も改善した.中大脳動脈穿通枝の血管炎により特異な臨床症状と画像所見を呈した橋本脳症と考えられた.

(臨床神経, 46:568−571, 2006)
key words:橋本脳症, 記憶障害, 基底核病変, 脳梗塞, α-enolase

(受付日:2005年12月9日)