臨床神経学

短報

多発性単神経炎で発見されたHIV初期感染症の1例

杉本 英樹1), 紺野 晋吾1), 高宮 清之2), 根本 博1), 若田 宣雄1), 栗原 照幸1)

1)東邦大学医療センター大橋病院神経内科〔〒153-8515 東京都目黒区大橋2-17-6〕
2)同 臨床検査科

HIV初期感染の急性感染期症状として陽性転化関連末梢神経障害を呈した34歳の男性例を報告した.発熱,下痢などの感染症状が数日続き,その後,約2週間して左下垂足のため歩行障害がおこり,下肢遠位部優位の運動ニューロパチーを呈した.髄液では単核球優位の細胞数増加と蛋白増加をみとめた.運動神経伝導検査では左側の腓骨神経と脛骨神経に脱髄所見がみとめられた.ELISA法でHIV抗体が陽性でありWestern blot法にてもgp160およびp24に相当するバンドが陽性であったので,HIV感染初期で陽性転化の時期と診断した.本例はHIV陽性転化関連末梢神経障害で多発性単神経炎を呈した貴重な症例である.AIDS発症前にHIV感染者を早期発見し,治療する観点からも急性の末梢神経障害をきたした症例にはHIV感染症による可能性も念頭に置いて診断を進めることが望ましいのではないかと考えられた.

(臨床神経, 46:561−563, 2006)
key words:HIV感染症, 陽性転化関連末梢神経障害, 多発性単神経炎, 初期感染

(受付日:2006年3月9日)