臨床神経学

原著

高齢発症の筋萎縮性側索硬化症患者の臨床特徴;とくに呼吸不全との関連について

寺尾 心一1)*, 三浦 尚文1)**, 小佐野 裕1)***, 足立 皓岑1)****, 祖父江 元2)

1)愛知医科大学 総合診療内科〔〒480-1195 愛知郡長久手町岩作雁又21〕
名古屋掖済会病院 神経内科を経て, 現 春日井市民病院神経内科〔〒486-8510 春日井市鷹来町1丁目1-1〕
**現 青木内科
***現 藤井病院神経内科
****現 なるみ記念診療所
2)名古屋大学 神経内科〔〒466-8550 名古屋市昭和区鶴舞町65〕

高齢発症ALS患者26例(E群;73.2±6.0歳)の臨床特徴を明らかにするために,若壮年発症の28例(Y群;53.7±7.6歳)と比較検討した.高齢E群では球麻痺(BP)型が11例(42%),呼吸障害(RF)型が7例(27%)と多く,Y群では上肢発症(UE)型が14例(50%)ともっとも多かった.初診時のパーセント肺活量(%VC)は,E群は71.1±20.4%(肺活量:2.12±0.85 l)で,Y群の90.1±14.0%(2.94±0.57 l)よりも有意に低く(p<0.01),病型間ではE群のRF型とBP型が低かった.自覚症状の発現後から受診までの期間はE群,Y群ともRF型が有意に短く,次いでBP型が短かった.E群では22例が呼吸不全で死亡,4例が人工呼吸器を装着し,死亡時点までの経過はE群が20.9±10.4カ月で,Y群の38.8±21.1カ月よりも有意に短かった(p<0.01).また両群ともRF型が有意に短く,次いでBP型が短い傾向があった(P<0.05,0.01).呼吸機能の減弱に関して,高齢E群では初期%VCが低く,かつその減弱が比較的早期に発現する傾向があった.加齢による呼吸予備能力の低下が,呼吸不全死にいたる経過を早くする可能性がある.

(臨床神経, 46:381−389, 2006)
key words:筋萎縮性側索硬化症, 高齢者, 自然経過, 加齢, 呼吸機能

(受付日:2005年9月29日)