臨床神経学

短報

味覚障害をともなったFisher症候群の1例

内堀 歩, 柏木 哲朗, 竹内 壯介, 千葉 厚郎, 作田 学

杏林大学神経内科〔〒181-8611 東京都三鷹市新川6-20-2〕

症例は38歳の男性である.上気道炎後,失調,複視,腱反射消失が出現し,血清IgG抗GQ1b抗体陽性,髄液蛋白細胞解離をみとめ,Fisher症候群と診断した.味覚障害をともなっており,甘味とくらべて塩味・酸味・苦味の味覚が低下していた.IVIgを施行し,味覚障害をふくめて神経症状は全快した.経過中,顔面筋麻痺はみとめなかった.味覚障害はGuillain-Barré症候群においてまれな症状であり,われわれの検索内で報告は21例あり,先行感染の多くは上気道炎でほとんどの症例に顔面筋麻痺がみられた.臨床病型ではFisher症候群は本例の他1例のみであった.本例と同様に解離性味覚障害を呈する症例があったが,障害される味質に一定の傾向はなかった.本例では鼓索神経,舌咽神経,大錐体神経,迷走神経上喉頭枝支配領域全域の味覚低下をみとめ,味覚という感覚モードに関与する末梢神経の全般性の障害と考えられた.

(臨床神経, 46:281−284, 2006)
key words:Guillain-Barré症候群, Fisher症候群, 味覚障害

(受付日:2005年6月20日)