臨床神経学

原著

筋ジストロフィー患者では高率に抗β1アドレナリン受容体抗体が存在する

松村 剛1), 吉尾 卓2), 山本 啓二3), 齊藤 利雄1), 藤村 晴俊1), 神野 進1)

1)独立行政法人国立病院機構刀根山病院神経内科〔〒560-8552 大阪府豊中市刀根山5-1-1〕
2)自治医科大学内科学講座アレルギー膠原病学部門
3)自治医科大学内科学講座循環器内科学部門

当院受診中の筋ジストロフィー患者93名で,抗β1アドレナリン受容体抗体を測定した.抗体陽性率は31.5%で,心不全症状を有する患者では75.0%と高い陽性率を示した.抗体価は左室短縮率,BNP,ノルアドレナリン,不整脈重症度などと弱い相関をみとめ,観察期間に心不全が出現した4例では症状発現にともない抗体価が上昇した.β遮断薬を服用中の患者はACE阻害剤のみ服用中の患者にくらべ,心機能は不良なものの抗体価は低い傾向を示した.心筋障害を有する筋ジストロフィーでも,一般の心筋症と同様に抗心筋抗体がみとめられることが明らかとなり,免疫機序が心筋障害プロセスに関与している可能性が示唆され,病態解明や治療を考える上で重要と思われた.

(臨床神経, 46:687−692, 2006)
key words:筋ジストロフィー, 心筋症, 心不全, 自己抗体, 抗β1アドレナリン受容体抗体

(受付日:2006年2月7日)