臨床神経学

症例報告

過眠を呈した乳癌による傍腫瘍性辺縁系脳炎の1例

河村 信利, 川尻 真和, 大八木 保政, 三野原 元澄, 村井 弘之, 吉良 潤一

九州大学大学院医学研究院附属脳神経病研究施設神経内科〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕

症例は50歳の女性である.2001年10月下旬よりふらつき歩行,11月より過眠が出現し,12月14日入院した.左腋窩にくるみ大のリンパ節腫脹をみとめた.神経学的には近時記憶の障害と過眠傾向,注視方向性眼振と軽度の失調性構音障害,開脚歩行がみられ,つぎ足歩行は不安定であった.髄液蛋白が109 mg/dlと増加していた.乳房超音波検査で左乳房に5 mm大の辺縁不整な腫瘤をみとめ,乳房腫瘤および左腋窩リンパ節の生検にて乳頭腺管癌と診断された.ポリソムノグラフィーにて睡眠時間およびsleep stage 1の著明な延長とsleep stage 2の相対的減少をみとめた.神経症候は血漿交換療法に反応なかったが,腫瘍に対する治療にてすみやかに消失した.抗神経抗体をみとめなかったことより,細胞性免疫が神経症状出現に関与した可能性が考えられた.

(臨床神経, 45:575−578, 2005)
key words:過眠, 乳癌, 傍腫瘍性辺縁系脳炎, ポリソムノグラフィー, 細胞性免疫

(受付日:2004年9月6日)