臨床神経学

短報

交叉性上直筋単独麻痺の1例

塚本 哲朗1), 山本 光晴2), 布施 孝久2), 木村 正彦3)

1)沼津リハビリテーション病院神経内科〔〒410-0813 静岡県沼津市上香貫蔓陀が原2510-22〕
2)静岡医療センター脳神経外科〔〒410-0813 静岡県駿東郡清水町長沢726-1〕
3)同 眼科

61歳男性が突然耳鳴と複視をきたした.神経学的にもHessテストにおいても右側の強い上直筋麻痺がみとめられたが,他の脳神経麻痺や,片麻痺,感覚障害,運動失調など神経学的異常はなかった.MRIでは左視床内側に梗塞の主病変があり,ごく一部中脳上丘レベルに達していた.上直筋への動眼神経は核を出た後すべて対側に向かうため,この上直筋麻痺は対側動眼神経核のうち上直筋の核だけが選択的に損傷を受けたためと考えられたが,きわめてまれなことである.病変が上方から連続的に上丘レベルにおよんでおり,他の動眼神経核の障害がみられなかったことから,交叉する上直筋への神経核は動眼神経核群の吻側に存在すると推測された.また,麻痺側に軽度の眼瞼下垂がみられたが,一部交叉する上眼瞼挙筋への神経も傷害されていた可能性があった.発症2カ月後には複視は消失していた.

(臨床神経, 45:445−448, 2005)
key words:複視, 上直筋麻痺, 交叉性上直筋麻痺, 中脳梗塞

(受付日:2004年8月16日)