臨床神経学

症例報告

PABPN1遺伝子(GCG)8のヘテロ変異が同定された老年期発症の眼咽頭筋ジストロフィーの1例

徳武 孝允1), 池内 健1)2), 田中 惠子1), 小野寺 理1)2), 西澤 正豊1)

1)新潟大学 脳研究所 神経内科〔〒951-8585 新潟市旭町通1〕
2)新潟大学 脳研究所 生命科学リソース研究センター

老年期に発症した眼咽頭筋ジストロフィーの1例を報告する.症例は72歳女性である.父親は86歳,母親は74歳で死亡しており,両親をふくめて家族内に類症をみとめない.66歳から鼻声が出現し,68歳より両側眼瞼下垂,嚥下時のむせ,階段昇降困難が緩徐に進行した.72歳入院時,両側眼瞼下垂,嚥下障害,開鼻声,上下肢近位筋筋力低下をみとめた.CKは軽度高値であった.筋生検では筋線維の大小不同と少数のrimmed vacuoleをみとめた.ポリA結合タンパク(PABPN1PABP2)遺伝子内の(GCG)リピート数は6/8であり,眼咽頭筋ジストロフィーと確定診断した.(GCG)8ヘテロ接合体の既報の表現型は高齢発症で軽症例が多く,本例も類似の臨床像を呈した.眼瞼下垂,嚥下障害を呈する高齢者では,とくに家族歴が明らかでないばあい,老人性眼瞼下垂もしくは嚥下障害として見過ごされる危険性があり,眼咽頭筋ジストロフィーの鑑別が必要であると考えられた.

(臨床神経, 45:437−440, 2005)
key words:眼咽頭筋ジストロフィー, 眼瞼下垂, 遺伝子診断, 嚥下障害, GCGリピート

(受付日:2004年9月24日)