臨床神経学

症例報告

前篩骨洞粘表皮癌にともなう髄膜癌腫症の1例

林 祐一1), 松山 善次郎1), 村井 道典2), 下川 邦泰3), 天野 雄平1), 橋爪 龍磨1), 西田 浩1), 保住 功1), 犬塚 貴1)

1)岐阜大学大学院医学研究科 神経統御学講座 神経内科・老年学分野〔〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1-1〕
2)同 耳鼻咽喉科学分野
3)山内ホスピタル 病理

症例は,複視,眼瞼下垂と進行する下肢の筋力低下と疼痛をきたした65歳男性である.血清,髄液中のCA19-9の上昇,髄液中に免疫染色でCA19-9陽性の異型細胞をみとめた.18F-Deoxyglucose Positron Emission Tomography(FDG-PET),CTで全身腫瘍検索をしたところ,右前篩骨洞に腫瘍をみとめた.生検にて右前篩骨洞粘表皮癌と診断した.画像所見などから右前篩骨洞粘表皮癌が,眼窩内に浸潤する一方で,篩板を融解し髄膜癌腫症をきたしたと考えた.粘表皮癌は,唾液腺に好発する腫瘍であるが,きわめてまれに副鼻腔など唾液腺以外に発生するばあいがある.前篩骨洞は,解剖学的に眼窩と接する一方で,篩板を境とし髄腔内と接するため,髄膜癌腫症へ発展する可能性がある.われわれがこれまでに検索したかぎりでは,髄膜癌腫症から発見された副鼻腔粘表皮癌の報告はなく,貴重な症例と考え報告する.

(臨床神経, 45:422−425, 2005)
key words:粘表皮癌, 篩骨洞, CA19-9, 髄膜癌腫症, 副鼻腔CT

(受付日:2004年7月7日)