臨床神経学

症例報告

記憶力低下にて発症した一次性慢性進行型多発性硬化症の1例

山下 謙一郎1), 野村 拓夫1), 大八木 保政1), 谷脇 考恭1), 古谷 博和1), 桑原 康雄2), 吉良 潤一1)

1)九州大学大学院医学研究院脳神経病研究施設神経内科〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕
2)九州大学大学院医学研究院臨床放射線科

症例は52歳の女性である.慢性進行性の記憶力低下を呈した.HDS-R 22点,WAIS-RでIQ 69と認知障害があり,前向性健忘がめだった.また,軽度の左上下肢の小脳性運動失調および失調性歩行をみとめた.MRIでの側脳室周囲のT2強調画像高信号病変と胸髄のガドリニウム造影病変と,髄液IgG indexの上昇をみとめ,一次性慢性進行型多発性硬化症と診断した.99mTc脳血流シンチグラフィーで両側前頭葉・側頭葉の血流低下をみとめた.多発性硬化症の痴呆症は皮質下痴呆が一般的であり,また一次性慢性進行型多発性硬化症は通常痙性対麻痺や小脳性運動失調症を主徴とするが,本例ではアルツハイマー病類似の記憶障害が主体だった.

(臨床神経, 45:351−356, 2005)
key words:一次性進行型多発性硬化症, 記憶障害, 痴呆

(受付日:2004年4月2日)