臨床神経学

症例報告

筋力トレーニングが両側翼状肩甲発症に関与したと考えられた長胸神経麻痺の1例

江幡 敦子, 国分 則人, 宮本 智之, 平田 幸一

獨協医科大学神経内科〔〒321-0293 栃木県下都賀郡壬生町北小林880〕

筋力トレーニングによる長胸神経障害の結果,両側翼状肩甲を生じたと考えられた1例を経験したので報告した.症例は27歳の男性で理容師である.既往歴は18歳時に左鎖骨骨折がある.2003年1月よりスポーツジムに通い筋力トレーニングを開始した.3月ごろより徐々に上肢の挙上が困難となったため当院を受診した.左優位の上肢挙上困難と両側翼状肩甲をみとめ,前鋸筋筋力の明らかな低下をみた.その他肩甲帯の筋力に異常はなかった.針筋電図では前鋸筋に神経原性変化をみとめ,筋CT上両側前鋸筋に限局する筋萎縮がみられたことから両側長胸神経麻痺と診断した.本例の長胸神経障害の発生機序として,絞扼をきたしやすい長胸神経の走行の解剖学的特徴と反復運動による過度の伸展ストレスが原因と考えられた.両側長胸神経麻痺はまれな病態であり,貴重な症例と考え報告した.

(臨床神経, 45:308−311, 2005)
key words:翼状肩甲, 長胸神経麻痺, 前鋸筋, 筋力トレーニング

(受付日:2004年6月23日)