臨床神経学

症例報告

肝性脳症で発症した門脈血栓症の1例

岩谷 奈緒1)2), 稲富 雄一郎1), 米原 敏郎1), 藤岡 正導1), 橋本 洋一郎3), 平野 照之4), 内野 誠4)

1)済生会熊本病院脳卒中センター〔〒861-4139 熊本市近見5-3-1〕
2)現 加治木温泉病院リハビリテーション科
3)熊本市立熊本市民病院神経内科
4)熊本大学大学院医学薬学研究部神経内科学分野

症例は54歳男性である.発症3カ月前に前立腺癌に対し前立腺摘出術と酢酸クロルマジノン内服歴あり.記憶障害等で急性発症し,第6病日には発熱,上腹部痛が出現した.血中アンモニアは正常であったが,アミノ酸分析でフィッシャー比の低下をみとめた.さらに腹部超音波検査などにより肝外門脈から上腸間膜静脈におよぶ血栓症をみとめ,門脈から分枝する異常血管も確認された.ワルファリンカリウム,ウロキナーゼ,ヘパリンナトリウムなどによる抗血栓療法をおこなったところ,血栓は溶解し,神経,腹部症候ともに治癒した.本例では,門脈血栓症に続発する門脈大循環型短絡が肝性脳症の発症に関与した可能性が考えられた.

(臨床神経, 45:235−238, 2005)
key words:門脈血栓症, 門脈炎, 肝性脳症, 門脈大循環短絡, 抗血栓療法

(受付日:2004年8月2日)