臨床神経学

症例報告

抗核抗体と抗SS-A抗体が強陽性で髄液中に抗神経抗体をみとめた非ヘルペス性,非傍腫瘍性辺縁系脳炎の1剖検例

中島 綾1), 雪竹 基弘1), 永石 彰子1), 水田 治男1), 黒原 和博1), 井上 葉子2), 杉田 保雄2), 酒井 宏一郎3), 黒田 康夫1)

1)佐賀大学医学部内科(神経内科)〔〒849-8501 佐賀市鍋島五丁目1-1〕
2)同 病因病態科学講座
3)金沢医科大学脳脊髄神経治療学(神経内科)

76歳男性例を報告した.8年前に胃がん全摘を受けている.全身痙攣発作とそれに続く意識障害および一過性の右片麻痺で発症し,意識回復後は人格変化を呈した.MRIで海馬をふくむ左側頭葉内側に異常信号をみとめ,辺縁系脳炎と診断した.ヘルペスウイルス抗体価の上昇はなく,血清で抗核抗体と抗SS-A抗体が強陽性,髄液でIgGとIgG Indexの上昇をみとめた.ウエスタンブロットにて髄液にヒト脳78kDのバンドに反応する抗体をみとめた.28病日に肺炎にて死亡した.剖検で悪性腫瘍はなかった.左海馬で錐体神経細胞の変性・消失,マクロファージ浸潤,グリオシースをみとめたが,血管炎はなかった.免疫組織化学染色で,患者髄液により海馬神経細胞とプルキンエ細胞の胞体が濃染された.本症例は抗体が主として関与した自己免疫性辺縁系脳炎と考えられた.

(臨床神経, 45:100−104, 2005)
key words:辺縁系脳炎, 自己免疫疾患, 抗神経抗体, シェーグレン症候群, 傍腫瘍症候群

(受付日:2004年4月21日)