臨床神経学

短報

梗塞巣の拡大をみとめた前大脳動脈解離の1例

大村 真弘1)*, 寺井 正1), 山脇 健盛2), 重野 幸次1)

1)静岡市立清水病院 神経内科〔〒424-8636 静岡市清水区宮加三1231〕
現 国立循環器病センター内科脳血管部門〔〒565-8565 吹田市藤白台5-7-1〕
2)名古屋市立大学大学院医学研究科生物機能制御医学神経病態学〔〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1〕

経過中に梗塞巣の拡大をみとめた特発性前大脳動脈解離の1例を報告した.症例は46歳女性である.下肢に強い右不全片麻痺および両側の後頭部痛を呈し入院した.入院時の脳血管造影では左前大脳動脈の壁不整を,第2病日の頭部MRI拡散強調画像では左前大脳動脈領域に急性期梗塞をみとめた.抗血栓療法は症状が改善した第3病日より中止した.第10病日の頭部MRI拡散強調画像では梗塞巣の拡大をみとめ,第16病日の血管造影では解離の進行をみとめた.頭蓋内脳動脈解離においては経過中くも膜下出血を合併する可能性があり,抗血栓療法の施行に当たっては一定の見解がえられていない.本例は抗血栓薬を投与していない時に梗塞巣の拡大および解離の進行をみとめた特発性前大脳動脈解離の1例であり,頭蓋内脳動脈解離における抗血栓療法の是非において示唆に富む貴重な症例である.

(臨床神経, 45:762−765, 2005)
key words:脳梗塞, 動脈解離, 前大脳動脈, 抗血栓療法

(受付日:2005年1月5日)