臨床神経学

原著

脳卒中急性期患者データベースをもちいた日本と中国(瀋陽市)における脳梗塞の比較

呉 麗華1)*, 高橋 一夫1), 小林 祥泰1), 田 国萍2), 宋 利春3), 松井 龍吉1), 山口 修平1), 脳卒中急性期患者データベースの構築に関する研究班(JSSRS group)

1)島根大学医学部神経血液膠原病内科〔〒693-8501 島根県出雲市塩冶町89-1〕
2)中国瀋陽市第一病院神経内科
3)中国医科大学附属第二病院神経内科
現 中国瀋陽市第一病院神経内科

中国瀋陽における脳梗塞の実態を明らかにし,日本のデータと比較する目的で,中国東北部,瀋陽にある二つの病院,瀋陽市第一病院(以下,瀋陽脳科病院)と中国医科大学附属第二病院(以下,中国医大)に入院し,脳卒中データベース(脳卒中急性期患者データベース構築研究班作成)に登録された50歳以上の急性期(発症7日以内)初回脳梗塞患者連続1,353例を対象として,年齢,性別,発症様式,病型別分布,危険因子,入退院時の重症度を検討した.さらに,この結果を,同時期に,日本全国で脳卒中データベースに登録された患者(2,929例)の結果と比較した.中国の両病院における,発病年齢は瀋陽脳科病院で平均68.0±8.9歳,中国医大で65.7±7.7歳であり,日本(71.3±10.2歳)と比較し有意に若年であった.脳梗塞病型別頻度は瀋陽脳科病院,中国医大,日本で,アテローム血栓性梗塞が各々75%,83%,30%,ラクナ梗塞が21%,15%,32%,心原性脳塞栓が1%,2%,31%であり,日本と比較し,中国ではアテローム血栓性梗塞の割合が高く,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓の割合は有意に低下していた.危険因子の頻度は瀋陽脳科病院,中国医大,日本でそれぞれ高血圧が76%,77%,62%であり,糖尿病が9%,12%,25%であり,心房細動は2%,4%,21%であった.高血圧は中国で有意に頻度が高く,心房細動は有意に低頻度であった.脳梗塞の発症様式では突発完成の発症例が中国では少なく,また梗塞部位の検討では,テント上皮質枝梗塞の頻度が多く,心房細動が中国で低頻度であったことは心原性脳塞栓が中国瀋陽ではまれなことを支持する結果であった.

(臨床神経, 44:335−341, 2004)
key words:脳梗塞, 病型, 危険因子, 中国, 心房細動

(受付日:2003年5月7日)