臨床神経学

短報

左全眼筋麻痺を主徴とした神経梅毒の1例

高倉 由佳, 山口 通子, 三好 甫

労働福祉事業団大牟田労災病院神経内科〔〒837-0904 福岡県大牟田市大字吉野字中尾1063〕

73歳女性が2001年12月初旬頃より左眼球の内側への偏倚を示した.2002年1月には複視もみられるようになった.3月初旬より左眼瞼下垂が出現し,中旬には閉眼状態となった.4月上旬には左眼は閉眼状態,左眼球は正中で固定し全方向に眼球運動障害をみとめ,対光反射は両側で消失していた.4月18日の入院時には,左動眼神経・滑車神経・外転神経麻痺,右眼の瞳孔散大・対光反射の消失のみをみとめ,その他中枢・末梢神経系ともに異常所見はみられなかった.血清・髄液中の梅毒反応が高値であり,髄膜炎型の神経梅毒と診断した.ペニシリンG1,800万単位の点滴静注を10日間おこなったところ,約1カ月の経過で対光反射以外の症状は完治した.このような非常に限局した病巣を呈した髄膜炎型神経梅毒の報告はない.髄膜炎型神経梅毒患者では,様々な脳神経障害を呈する可能性があり,脳神経障害の鑑別診断として,神経梅毒は常に念頭に置く必要があると考えた.

(臨床神経, 44:296−298, 2004)
key words:神経梅毒, 髄膜炎, 動眼神経麻痺, 滑車神経麻痺, 外転神経麻痺

(受付日:2003年7月18日)