臨床神経学

短報

構音障害のみを呈した小脳梗塞の1例

小川 克彦, 鈴木 裕, 亀井 聡, 水谷 智彦

日本大学医学部内科学講座神経内科部門〔〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30-1〕

四肢・体幹の失調をともなわず失調性構音障害のみを呈した69歳の男性例を報告する.急性上肢動脈閉塞症のうたがいのため右上肢の血管造影検査を受けてその翌日に退院したが,帰宅した当日しゃべりにくさを自覚したため,当科に入院した.入院時,中等度の失調性構音障害がみられた以外,他の神経症状はみとめられなかった.頭部MRIでは,右小脳半球上部の四角小葉から単小葉にかけて梗塞がみられた.本症例と過去の失調性構音障害のみを呈した小脳梗塞例を検討し,小脳における構音障害の責任病巣を考察した.小脳半球上部における単小葉が多くの例で障害されているため,同部位が失調性構音障害の発症に深く関与していると推測した.

(臨床神経, 44:111−113, 2004)
key words:失調性構音障害, 単小葉

(受付日:2003年5月18日)