臨床神経学

原著

Wallenberg症候群における複視

中里 良彦, 島津 智一, 武井 和夫, 菅原 通子, 荒木 信夫, 田村 直俊, 島津 邦男

埼玉医科大学神経内科〔〒350-0495 埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38〕

Wallenberg症候群で複視が生じる頻度,要因を検討した.31例中10例(32%)で複視をみとめ,うち5例は垂直方向のみ,5例は垂直・水平方向の複視であった.本症候群で複視が生じるのは,主にotolith-ocular pathwayの障害のためであるが,垂直方向でみとめる複視の多くは病巣側が下方偏位するskew deviation,ocular tilt reactionによる眼球回旋で説明可能である.一方,水平方向の複視をともなうばあいには内側縦束(MLF)症候群の合併のため,同時に健常側が下方偏位するskew deviationが加わっていると考える.さらに,MLF症候群ではparalytic pontine exotropia,non-paralytic pontine exotropiaをともなうことがあり,これらも水平方向の複視の要因になる.

(臨床神経, 44:1−6, 2004)
key words:Wallenberg症候群, 複視, ocular tilt reaction, skew deviation, 内側縦束

(受付日:2003年3月25日)