臨床神経学

短報

頭部打撲による一側性滑車神経単独麻痺

石崎 恵理1), 黒川 泰任2)

1)旭川脳神経外科病院 神経内科〔〒078-8220 旭川市10条通21丁目〕
2)同 脳神経外科

滑車神経は唯一背側から起始する脳神経で,もっとも細く,走行はもっとも長い.その二次性単独麻痺の原因は頭部外傷がもっとも多いが,神経放射線学的報告は少ない.頭部打撲による一側性滑車神経麻痺を呈した例のCT,MRI所見を報告する.症例は72歳の男性で,両手に荷物を持って階段を登り,13段の高さから後ろ向きに転落した.右頭頂部を床にぶつけたが,意識消失や外傷はなかった.対坐法では眼球運動制限はみられなかったが,下方視で複視を訴えた.CTでは,左四丘体槽に高吸収域をみとめ,MRIのT2強調画像でも低信号域を確認した.頭部への衝撃で中脳がゆさぶられて小脳天幕縁に接触し,神経の直接損傷または血腫による圧迫で滑車神経麻痺を呈したと考えられた.

(臨床神経, 43:571−573, 2003)
key words:滑車神経, 小脳天幕, 中脳, 頭部外傷, 複視

(受付日:2003年6月23日)