臨床神経学

症例報告

Alien hand syndromeと考えられる症状を呈した右後大脳動脈領域脳梗塞の1例

加藤 陽久, 飯嶋 睦, 廣井 敦子, 久保 昌史, 内潟 雅信

公立昭和病院神経内科〔〒187-8510 東京都小平市天神町2丁目450番地〕

症例は63歳右きき男性である.左上肢の使いづらさを主訴として入院した.左同名半盲・左半側空間無視をみとめたが,明らかな脳神経障害や運動・感覚障害はなく左上下肢で失調をみとめた.入院後,左上下肢の表在覚・深部覚がほぼ脱失する感覚障害が加わった.頭部MRIでは右視床をふくむ右後大脳動脈領域に急性期脳梗塞をみとめた.感覚障害が加わった後から,「左手が自分勝手に動く」などalien hand syndrome(AHS)と考えられる症状が出現した.一般にAHSは前頭葉内側面・帯状回や脳梁(脳梁膝部・体部)の障害によって出現すると考えられているが,本例ではこれらの部位とは明らかにことなる病巣が原因となって,AHSが出現した.

(臨床神経, 43:487−490, 2003)
key words:他人の手徴候, 視床, 脳梗塞, 感覚, 後大脳動脈

(受付日:2003年3月8日)