臨床神経学

短報

軽度の意識障害による認知機能低下を主症状とした橋本脳症の1例

波田野 靖子, 森 秀生, 角坂 薫, 北田 徹, 卜部 貴夫, 水野 美邦

順天堂大学脳神経内科〔〒113-8421 東京都文京区本郷2-1-1〕

症例は66歳女性である.亜急性に痴呆様状態,自発性低下,歩行障害が出現し入院.血清TSH上昇,抗サイログロブリン抗体が陽性であった他はとくに異常所見をみとめなかった.橋本脳症の可能性を考えてステロイドを投与したところ,症状の著明な改善をみとめた.従来の橋本脳症の報告例と比較して振戦・ミオクローヌスや痙攣をともなわず軽度の意識障害による認知機能低下を主とした点が特徴であった.本例は高齢者の痴呆様状態の鑑別に本症が重要であることを示している.

(臨床神経, 43:360−362, 2003)
key words:橋本甲状腺炎, 橋本脳症, ステロイド, 認知機能低下, 歩行障害

(受付日:2003年2月5日)