臨床神経学

症例報告

脊髄圧迫所見を認めず急性対麻痺で発症した脊髄硬膜外Ki-1リンパ腫の1例

荒木 栄一1), 池田 公明2), 田村 潔1)

1)九州労災病院神経内科〔〒800-0296 北九州市小倉南区葛原高松1-3-1〕
2)同 内科

症例は68歳男性である.急性の両下肢脱力で発症し,入院時の所見として痙性対麻痺と排尿障害をみとめた.しかし,MRI検査では脊髄に病変をみとめなかった.その後胸部以下の感覚障害と両手の脱力も出現した.発症7カ月後には新たに右上肢の痛みが現れ,MRI検査で下部頸髄から上部胸髄の硬膜外に腫瘤病変をみとめた.その組織検査でKi-1リンパ腫と診断した.本症例では発症時にリンパ腫による脊髄への圧迫病変はみとめず,早期診断が困難であった.発症時の脊髄障害の機序として,硬膜外リンパ腫による脊髄の循環障害が考えられた.

(臨床神経, 43:249−252, 2003)
key words:Ki-1リンパ腫, 硬膜外腫瘍, 脊髄障害, 対麻痺

(受付日:2002年10月22日)