臨床神経学

原著

ミトコンドリア病成人患者に対するジクロロ酢酸治療

大石 健一1)2), 吉岡 雅之1), 小澤 律子1), 山本 敏之1), 大矢 寧1), 小川 雅文1), 川井 充1)

1)国立精神・神経センター武蔵病院神経内科〔〒187-8551 小平市小川東町4-1-1〕
2)現 神戸大学大学院医学系研究科医科学専攻 展開医科学領域応用分子医学講座内分泌/代謝, 神経, 血液/腫瘍内科学分野〔〒650-0017 神戸市中央区楠町7-5-2〕

ミトコンドリア病の成人3名にジクロロ酢酸(DCA)を投与し効果を検討した.全例で血中,髄液中の乳酸・ピルビン酸値と臨床症状が改善したが,約50 mg/kg/日で投与した2名では意識障害と末梢神経障害が生じ,DCAの副作用と考えた.23 mg/kg/日で投与した1名の血漿DCA濃度は従来小児で報告されている有効血中濃度より低かったが,32カ月間継続投与し副作用はない.成人例では小児より低い血中DCA濃度でも有効な症例が存在し,末梢神経や中枢神経障害をおこしやすい可能性があることから,DCAの投与量を少なく設定すべきである.

(臨床神経, 43:154−161, 2003)
key words:ジクロロ酢酸, ミトコンドリア病, 成人患者, 意識障害, 末梢神経障害

(受付日:2002年12月24日)