臨床神経学

症例報告

血漿交換・免疫グロブリン大量療法が著効を呈した右下肢に限局するstiff-person症候群の1例

白石 裕一1), 本村 政勝1), 岩永 洋1), 辻野 彰1), 西浦 義博1), 調 漸1), 中村 龍文2), 吉村 俊朗3)

1)長崎大学医学部第一内科〔〒852-8501 長崎市坂本1-7-1〕
2)長崎大学大学院院感染分子病態学
3)長崎大学医学部保健学科

われわれは,42歳女性で,右下肢に限局した持続性筋硬直と有痛性筋痙攣の症例を報告する.有痛性筋痙攣は突然発症し,1週間にわたり進行した.入院時,右膝関節は伸展,右足関節は底屈,内反し,歩行は不能であった.神経学的所見では深部腱反射は右膝で亢進し,右Chaddock徴候陽性で,右下肢に筋硬直と有痛性の筋痙攣をみとめた.この有痛性筋痙攣は突然の音,触覚刺激,情動などのストレスで容易に誘発された.左下肢,上肢,躯幹には筋硬直はみとめなかった.針筋電図で持続性筋放電をみとめた.血清抗glutamic acid decarboxylase(GAD)抗体140,000単位/ml,髄液中抗GAD抗体1,357単位/mlと高値であり,この症例をstiff-person症候群の限局型(以下stiff-leg症候群)と診断した.検査結果では悪性腫瘍は発見されず,甲状腺機能正常の橋本病を合併していた.本症例のstiff-leg症候群に対し,ジアゼパムなどの薬物療法で治療したが難治性であり,入院後1カ月間はほとんど不変であった.血漿交換によって,自覚的に改善がみとめられ,抗GAD抗体価も低下した.その後,ひき続き大量免疫グロブリン療法(IVIg)をおこなうことによって,筋硬直と有痛性筋痙攣は消失した.その後,stiff-leg症候群の増悪は無いが,現在にいたるまで抗GAD抗体価は高値を持続している.われわれが検索したかぎり,本症例は,本邦でのstiff-leg症候群の最初の報告例である.

(臨床神経, 42:766−770, 2002)
key words:stiff-person症候群, stiff-leg(limb)症候群, 抗GAD抗体, 血漿交換, 免疫グロブリン大量療法(IVIg)

(受付日:2002年6月10日)