臨床神経学

症例報告

び漫性神経原線維変化病の経過を示したFahr病の1例

野本 信篤, 杉本 英樹, 井口 裕章, 栗原 照幸, 若田 宣雄

東邦大学医学部第四内科〔〒153-8515 東京都目黒区大橋2-17-6〕

症例は77歳女性,1988年夏頃から記銘力障害,幻覚,性格変化をみとめた.入院時血清Ca,P,血中HS-PTH,Ellsworth-Howard試験は正常,神経放射線学的に小脳歯状核,被殻,淡蒼球,視床に石灰化をみとめ,Fahr病と診断した.その後13年間経過観察をしたところ両側側頭葉が限局的に萎縮するのをみとめた.この結果自験例は臨床症状,神経放射線学的に石灰沈着をともなうび漫性神経原線維変化病(diffuse neurofibrillary tangles with calcification: DNTC)の特徴を満たしていた.われわれはFahr病とDNTCについて文献的考察をおこなうと共に,自験例の長期経過からFahr病の中にDNTCがふくまれると考えた.

(臨床神経, 42:745−749, 2002)
key words:初老期痴呆, び漫性神経原線維変化病, Fahr病, periventricular hyperintensity, leukoaraiosis

(受付日:2002年3月5日)