臨床神経学

症例報告

両側前大脳動脈解離による若年性脳梗塞の1例

植田 明彦1), 平野 照之1), 桂 賢一1), 牧野 敬史2), 甲斐 豊2), 濱田 潤一郎2), 内野 誠1)

1)熊本大学医学部附属病院神経内科〔〒860-0811 熊本市本荘1-1-1〕
2)同 脳神経外科

両側性に前大脳動脈の解離をみとめる若年性脳梗塞の1例を経験した.症例は38歳男性である.前頭部痛,対麻痺,構音障害を発症し入院した.両側前大脳動脈領域に梗塞巣をみとめ,強力な抗血栓療法を開始するも数日の経過で階段状に症状進行し,右上肢の麻痺,無動性無言,記銘力低下,性格変化,尿失禁,強制把握,発語および運動開始遅延を呈した.脳血管造影では右前大脳動脈に造影剤貯留と閉塞,左前大脳動脈に狭窄と拡張の所見をみとめた.脳血管造影所見は経時的に変化し,後に隔壁も観察された.特発性でありながら同時期に両側性の前大脳動脈解離をきたした貴重な症例と考えられた.

(臨床神経, 42:623−628, 2002)
key words:脳動脈解離, 前大脳動脈, 若年性脳梗塞, 対麻痺

(受付日:2002年6月25日)