臨床神経学

原著

土呂久鉱山公害地区でみられた砒素中毒によると思われる慢性型感覚優位の多発性ニューロパチーについて

川崎 渉一郎1)*, 矢澤 省吾1)**, 大西 晃生2)***, 大井 長和3)

1)宮崎県立延岡病院神経内科〔〒882-0835 宮崎県延岡市新小路2-1-10〕
2)産業医科大学神経内科〔〒807-8555 北九州市八幡西区医生ケ丘1-1〕
3)宮崎医科大学第三内科〔〒889-1692 宮崎県宮崎郡清武町木原5200〕
現 医療法人高信会辰元病院〔〒880-2224 宮崎県東諸県郡高岡町大字飯田2089-1〕
**現 宮崎医科大学第三内科〔〒889-1692 宮崎県宮崎郡清武町木原5200〕
***現 見立病院〔〒826-0041 田川市大字弓削田3237〕

鉱山公害による慢性砒素中毒症後遺症と思われる9例の,主にその神経学的所見について報告した.主体は感覚優位の多発性ニューロパチーで,四肢末梢の表在・深部覚がともに脱失または高度の低下状態にある例や,顔面や頭髪部,角膜,口腔内の感覚も低下して,その分布が全身におよぶ例もみられた.表在感覚低下の指標の一つとして入浴温度と飲湯温度をしらべたところ,全例とも温度感覚がいちじるしく低下していた.脱力はごく軽度であった.神経伝導速度は,正常ないし一部で低下し,腓腹神経生検では,小径有髄神経線維と無髄神経線維の減少がみられ,軽度の軸索変性が主体であった.その他に,嗅覚・味覚のいちじるしい低下,緊張型頭痛,頻回のこむら返りもみられた.

(臨床神経, 42:504−511, 2002)
key words:慢性砒素中毒症, 多発性ニューロパチー, 嗅覚障害, 味覚障害, 環境汚染

(受付日:2001年10月22日)