臨床神経学

症例報告

深部脳静脈血栓症で発症した家族性アンチトロンビンIII欠損症とその遺伝子解析

塚原 信也, 飯塚 高浩, 鈴木 則宏, 坂井 文彦

北里大学医学部内科(神経内科)〔〒228-8520 神奈川県相模原市北里1-15-1〕

抜歯後に深部脳静脈血栓症で発症した47歳女性例と,top of the basilar syndromeで発症した20歳男性例の同一家系内AT III type I欠損症2例を経験した.さらに,脳梗塞患者が家系内で多発していたことから,家族性AT III欠損症をうたがい,三世代合計18例に対しAT III抗原量および活性量の測定をおこない,6例がAT III type I欠損症であることを確認した.また,発端者のAT III遺伝子の遺伝子検査により,本邦では過去には報告のない新しい挿入変異を確認した.本2症例では,脳梗塞の発症に家族性AT III欠損症の関与が推察された.挿入変異で家族性AT III type I欠損症をきたした例はきわめて少なく,さらに従来の報告では下肢深部静脈血栓症や肺梗塞での発症が多いのに対し,本家系では脳血管障害発症例が多いことが特徴と考え報告した.

(臨床神経, 42:207−211, 2002)
key words:家族性アンチトロンビンIII欠損症, 遺伝子変異, 深部脳静脈血栓症, 脳底動脈先端症候群

(受付日:2001年9月18日)