臨床神経学

原著

遺伝性神経筋疾患における発症前遺伝子診断の現状と課題―当院遺伝子診療部の事例に基づく検討―

吉田 邦広1)2), 玉井 真理子1)3), 久保田 健夫1), 川目 裕1), 天野 直二4), 池田 修一1)2), 福嶋 義光1)

1)信州大学医学部附属病院遺伝子診療部〔〒390-8621 松本市旭3-1-1〕
2)信州大学医学部第三内科
3)信州大学医療技術短期大学部
4)信州大学医学部精神神経科

有効な治療法が確立されていない遺伝性神経筋疾患の発症前遺伝子診断を目的に受診した14名(対象疾患は筋強直性ジストロフィー4名,脊髄小脳失調症6名,Huntington病3名,Alzheimer病1名)を対象として,発症前遺伝子診断の現状と課題を検討した.動機としては全員が「不確実さの解消」と「将来の設計」をあげたが,中でも9名が結婚や挙児など近未来の具体的な予定を前提としていた.初診の時点では全般に「陰性」という結果に対する期待感の反面,「陽性」という結果に対する心理的な準備が不十分である印象を受けた.検査前の遺伝カウンセリングにおいては,それぞれの結果を想定したanticipatory guidanceが重要と思われた.

(臨床神経, 42:113−117, 2002)
key words:遺伝性神経筋疾患, 発症前遺伝子診断, 遺伝カウンセリング, 倫理的・法的・社会的問題, anticipatory guidance

(受付日:2001年4月4日)