臨床神経学

短報

食後低血圧が関与したと考えられるhemodynamic brain infarctionの1例

伊佐 勝憲, 渡嘉敷 崇, 田名 毅, 村谷 博美, 大屋 祐輔, 瀧下 修一

琉球大学医学部第三内科〔〒903-0215 沖縄県中頭郡西原町字上原207番〕

食後低血圧の関与が考えられたhemodynamic brain infarctionの1例を報告する.症例は左内頸動脈起始部閉塞にともない,左前方型境界域梗塞と左深部白質の終末域梗塞の既往がある76歳男性である.右片麻痺の増悪を訴え来院した.画像所見上,前回入院時に診断された左前方型境界域と左深部白質の終末域の梗塞の拡大をみとめた.24時間血圧測定では,食後1時間後に収縮期血圧が20mmHg以上低下する食後低血圧をみとめた.凝固系をふくめて他の危険因子の増悪はなかった.梗塞拡大の理由として,左内頸動脈閉塞に食後低血圧が加わったことによる血行力学的機序が考えられた.α-グルコシダーゼ阻害薬であるボグリボース服用開始後に食後低血圧の改善がみられた.頸部あるいは頭蓋内高度主幹動脈病変をともなう高齢者については日常生活にともなう血圧日内変動にも十分留意することが,脳虚血予防の観点からも重要である.

(臨床神経, 42:959−962, 2002)
key words:食後低血圧, α-グルコシダーゼ阻害薬, 内頸動脈閉塞, 分水嶺域梗塞

(受付日:2001年8月18日)