臨床神経学

症例報告

focal inhibitory seizureから複雑部分発作に移行するてんかん発作を呈した両側シルビウス裂周囲多小脳回症の1例

中野 美佐, 高瀬 靖, 巽 千賀夫

市立豊中病院神経内科〔〒560-8565 大阪府豊中市柴原町4-14-1〕

20歳女性を報告した.逆子分娩で生まれ,生下時臍帯牽引の状態にあった.19歳時よりてんかん発作が週に2〜3回おこるようになった.その発作は左または右上肢の脱力,表在知覚鈍麻より成るfocal inhibitory seizureがおこるとすぐに複雑部分発作に移行するものである.脳波でP3,O1,T5に焦点をもつ棘波をみとめた.Inversion recovery法をもちいた4mm厚の頭部MRIで,シルビウス裂後部から頭頂葉にかけて両側対称性に多小脳回がみられ,両側シルビウス裂周囲多小脳回症と診断した.シルビウス裂は頭頂葉までみられ,大脳裂の形成異常もみとめた.99mTc-ECD SPECTでは両側の多小脳回部で脳血流が増加していた.てんかん発作が唯一の症状である両側シルビウス裂周囲多小脳回症の報告はまれであり,貴重な症例と考えられた.

(臨床神経, 42:941−945, 2002)
key words:シルビウス裂, 多小脳回, focal inhibitory seizure, inversion recovery(IR)法

(受付日:2002年8月7日)