臨床神経学

症例報告

強制的くりかえし動作をみとめた進行性核上性麻痺の1症例

山本 敏之, 大石 健一, 大矢 寧, 小川 雅文, 川井 充

国立精神・神経センター武蔵病院神経内科〔〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1〕

強制的くりかえし動作をみとめた進行性核上性麻痺の51歳男性を報告する.43歳から徐々に易転倒,眼球運動麻痺,体幹・頸部の筋強剛,速話症などが出現し,頭部MRIで中脳被蓋部の萎縮と脳血流SPECTで前頭葉と左視床の集積低下をみとめた.47歳から痒みがないのに出血するまで体を掻き続け,本人が意図して始めた日常生活動作,書字,描画などでも意思に反して同じ動作をくりかえした.動作は強制的であったが,くりかえすことで苦悩や不安を緩和させているわけではなかった.また,開始や中止の指示にしたがえ,新たな課題への変更もすみやかに,正確にできた.本例の強制的くりかえし動作は,強迫性障害,常同症,保続とはことなると考えた.

(臨床神経, 42:925−929, 2002)
key words:進行性核上性麻痺, 強制的くりかえし動作, 保続, MRI, ECD脳血流SPECT

(受付日:2002年6月29日)