臨床神経学

症例報告

右視床梗塞により一過性の人形現象を呈した1例

川田 憲一, 宮崎 眞佐男, 葛原 茂樹1)

山田赤十字病院神経内科〔〒516-0805 三重県度会郡御薗村高向810〕
1)三重大学神経内科
現三重大学神経内科

一過性に人形現象がみられた右視床前内側部梗塞の87歳女性例を報告した.発症まで日常生活は自立していた.1997年1月25日構音障害,軽度左不全麻痺を生じ入院した.MRIで右視床前内側部に小梗塞をみとめ,123I-IMP SPECTで右前頭葉の血流低下をみとめた.高次機能検査で失見当識,発動性低下,記銘力障害,軽度視覚認知障害,word fluency低下をみとめたが書字,計算力は保たれていた.第14病日から手渡された人形を常に脇に置き,あたかも生きた自分の孫のように可愛がる人形現象が出現し退院時までみられたが3カ月後には消失した.本例の人形現象の発現には,右視床梗塞により生じた右半球障害による前頭葉機能をふくめた認知機能障害が関与していると考えた.

(臨床神経, 42:922−924, 2002)
key words:人形現象, 右視床梗塞, 右前頭葉機能障害

(受付日:2001年12月15日)